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性暴力被害 Me Too(私も)

(2017年11月18日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

体験発信 SNSで広がり

 米ハリウッド映画界の大物プロデューサーのセクハラ疑惑報道をきっかけに、女性らが過去のセクハラや性暴力被害を会員制交流サイト(SNS)に投稿する動きが世界中に広がっている。合言葉は「Me Too(私も)」。日本でも、レイプ被害を訴えたジャーナリストの伊藤詩織さん(28)に触発され、被害者の一部が声を上げ始めた。(池田悌一、安藤恭子、望月衣塑子)

 映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン氏(65)のセクハラ疑惑をスクープしたのは、先月5日の米紙ニューヨーク・タイムズだ。ワインスタイン氏が過去30年間、女優やモデルにセクハラ行為を働き、「少なくとも8人の女性と和解した」と報じた。

 ワインスタイン氏は約40年前、弟ボブ氏と大手映画制作会社「ミラマックス」を創業。1990〜2000年代、多くのアカデミー賞作品を手掛けた「ハリウッド最大の実力者」だ。

 権力を利用した行為に非難が相次ぎ、既に40人以上がセクハラ被害を訴えている。女優アンジェリーナ・ジョリーさん(42)は同紙の取材で「90年代後半、ホテルで望まない関係を迫られた」と告白。女優グウィネス・パルトロウさん(45)も「映画の主役に選ばれた後、ホテルの部屋でマッサージするよう迫られ拒否した」と同紙に証言した。

 ロサンゼルス市警などが捜査に着手する事態に発展する中、米女優アリッサ・ミラノさん(44)が先月15日に発信したツイートが大きな反響を呼んだ。「セクハラや性的暴行を受けたことのある全ての女性が『Me too』と書けば、問題の大きさを分かってもらえるのではないか」−。ネット上には、ミラノさんに呼応したハッシュタグ「#MeToo」付きの投稿があふれた。

 先月29日、フランスでは「#MeToo」を合言葉に数千人がデモ行進し、「セクハラにNON」「フランスでは8分に1人がレイプ被害」などと書かれたプラカードを掲げた。ノルウェーでも同日、国会前でデモが繰り広げられた。

 日本では「#MeToo」運動に先立ち、性犯罪を厳罰化した刑法改正議論の際も、被害者が自らの体験を語っている。

画像日本外国特派員協会で記者会見する伊藤詩織さん=10月24日、東京都千代田区で

 その象徴的存在となった伊藤さんは5月末、元TBS記者の男性から性暴力を受けたとして素顔、実名公表での記者会見に踏み切った。先月には手記「Black Box」(文芸春秋)を出版した。

 今月13日には、元厚生労働次官の村木厚子さん(61)がシンポジウムで、幼少期に近所の男子生徒から体を触られた経験を明かし、「ずっと誰にも言えなかった。でも大切な自分の権利が侵害されたということは言った方がいい」と呼び掛けた。

 作家の森まゆみさん(63)も「#MeToo」に共感した1人だ。「つらい経験でも、みんなで話して詩織さんに連帯しましょう。自分の意思に反して、何事も強制されない社会をつくるために」。先月末、過去のセクハラ被害をフェイスブックで打ち明けた。

画像自らのセクハラ被害について語る森まゆみさん=東京都千代田区で

 出版社に勤めていた20代のこと。社長にキスされ、抱きつかれるなどされた。「男女雇用機会均等法のない時代、やっと得られた職場を失いたくはなかった。当時『セクハラ』という言葉はなく、一人で悩み親にも言えなかった。社長は他の女性社員にも同じことをしていた」と記した。

 40年間封印してきたが、伊藤さんの会見報道に接して「勇気をたたえたい。一人にしてはいけない。今こそ自分も吐露しなければ」と決意したという。

 性暴力経験をブログで伝えているライターの椋木(むくのき)愛美さん(31)=島根県=は「この経験は一生心に抱えていくのだと思う。それでも発信するのは自分が前に進むためだ」と強調する。

 椋木さんは大学生の時、友人の男性から性行為を強要された。嫌なのに抵抗できず、被害に遭ったと認識するまでに2カ月を要した。傷つくことを恐れて警察にも相談できず、「生きている価値なんてない」と自分を責めた。

 「#MeToo」運動には「声を上げるも、上げないも、その人の判断を尊重したい」と前置きしつつ、「LGBT(性的少数者)への理解と制度が一気に進んだ時を思い出す。被害者が経験を打ち明けたいと思った時、心のハードルが下がればいい」と願う。

 7月に施行された改正刑法では1907(明治40)年の制定以来、性犯罪に関する規定が初めて大幅に見直され、法定刑が引き上げられたほか、男性が被害者の場合や、告訴がないケースでも罪に問えるようになった。しかし、強姦(ごうかん)罪から強制性交等罪に罪名が変わっても、加害者側の「暴行」「脅迫」が罪の構成要件になることは変わらず、被害者側の立証のハードルは依然として高い。

 2014年度の内閣府の調査によれば異性から無理やり性交されたことがある人のうち、加害者の74%は、交際相手や家族、職場関係者などの知人だった。

 性暴力の撲滅に取り組むNPO法人「しあわせなみだ」(東京)の中野宏美代表は「性暴力はごく身近に起きている。決して特別なことじゃないと知ってほしい」と警鐘を鳴らした上で、「性暴力後のケアが充実し、適切な捜査で加害者が罰されていれば、公に向けて経験を発信しなくてもいいはず。日本でも『#MeToo』の声が高まることで、性暴力は絶対に許されない、という抑止につながればいい」と話した。

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