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体が震える「本態性振戦」患者救う 名古屋共立病院 集束超音波治療

(2017年12月5日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

脳へ照射 即効性に驚き 副作用確認しつつ8回

画像超音波を一点に集中するヘルメットのような治療器を頭にかぶり、治療を待つ女性=名古屋市中川区の名古屋共立病院で

 名古屋共立病院(名古屋市中川区)は、メスを使わずに超音波で脳内を治療し、体の震えを止める集束超音波治療器を、中部地方で初めて導入した。数時間で治療でき、副作用が出ていないか調べながら比較的安全に治療を進められ、翌日に退院できる。先日あった治療の一部始終を取材した。(稲田雅文)

 大小2つの渦巻きが印刷された紙を前に、愛知県の女性(69)が右手にサインペンを持った。肘を浮かせながら、渦巻きや直線に沿ってペンを走らせるテストだ。紙にペンを近づけた途端、手が大きく震え、うまく線が引けない。線は大きく波打ち、渦巻きや直線を大きくはみだした。

 「若いころから、試験など緊張する場面で人より震えるのを自覚していた」と話す女性は、年齢を重ねるとともに体と両手の震えがひどくなっていった。安静にしていると何ともないのに、字を書く場合など一定の動作をすると震えが出る。力を込めて震えを抑え何とか文字を書いていたが、最近は書けなくなった。コップを口に近づけると、中身をこぼしてしまう。

 マッサージとはり・きゅうの治療院を営み、マッサージは何とかこなすものの、はり・きゅうの施術はやめた。「人生あきらめた方が楽かな」と思い詰めた。

 別の病院で処方された薬も効果が出ず、今年の春に同病院のふるえ外来を受診。集束超音波治療センターの加藤祥子医師(32)は、本態性振戦(ほんたいせいしんせん)と診断した。本態性は原因が分からないことで、振戦は震えを指す。

 この治療は、昨年12月に厚生労働省が薬事承認したばかりで、まだ健康保険は使えない。自由診療で2泊3日の入院と治療、前後の診察、検査などで200万円がかかるが「また、はり・きゅうをしたい」と治療を決断した。

 治療器は磁気共鳴画像装置(MRI)と組み合わせることで、脳の断層の画像を見ながら進める。午前8時半ごろ病室を出た女性は、冒頭のテストをした後、髪をそり上げ、治療器に頭を固定するための枠を付け、9時20分にMRI室へ入室。治療台に横たわり、大きなヘルメット状の装置に頭を入れた。

 本態性振戦は、脳の深部にある「視床」という感覚を中継する部分の一部が関係することが分かっている。治療器は、1024個の発信器が組み込まれ、超音波のエネルギーを一点に集中。5ミリ程度の範囲の温度を上げ、細胞を変性させて震えを抑える。

 津川隆彦センター長(51)や協力をしている名古屋大病院脳神経外科の医師2人、治療器のメーカーの技術者らが、MRIが撮影した脳の画像を注視する。治療する部位が少しでもずれると、手のしびれや手足の力が入りにくくなるなどの副作用が出る可能性がある。頭の位置を微調整するなど、1時間半ほど作業を進めた。

 「1回目、超音波照射します」。10時50分に加藤医師が合図をすると、10秒ほど超音波を照射。治療部位を探るための照射だ。3秒に1度、MRIから送られてくる画像から、照射位置と温度変化が分かる。最初の照射で温度を示すグラフが44度まで上昇した。この温度なら照射部位の脳細胞は生きているという。4回目の照射で正確な部位を探り当てることができた。

 「少し書きやすくなりました。体の震えが少なくなった感じです」。照射のたびに、MRIの中で寝たまま渦巻きを書くテストをしていた女性が声を上げた。これまでの照射で、すでに効果が表れているという。

画像渦巻きと直線に沿って線を引くテストの結果(一部画像処理)

 11時すぎ、治療のための照射が始まった。治療部位の温度は、55度まで上がった。加藤医師がMRI室に入り「足が動きにくい感じはないですか?」などと声をかける。超音波が頭蓋骨を加熱するため痛みが出るが、副作用は出なかった。テストの紙を支える看護師が「さっきまでと全然違いますね」と、書きぶりに驚きの声を上げた。

 正午前、治療部位を探る照射から数えて8回目の照射を実施。少し出力を上げ、患部を57度まで上げて治療は完了した。MRI室から出て頭の固定器具を外された女性は、机の前に座って早速テストを受ける。

 滑らかに渦巻きに沿ってペンが走り「自分じゃないみたい。何で書けるんだろう」と目を丸くした。自分の名前と「きょうはいいてんきですね」という文字ははっきりしていた。お茶が入ったコップを渡されると「怖い」と表情を曇らせたが、何事もなく飲めた。

 「はりときゅうはできますか?」と聞くと、大きな声でひと言「できますよ」。満面の笑みをたたえた。

健康保険 適用されず

 本態性振戦の患者は、中高年に多いものの、「高齢になれば仕方がない」と、治療をしない人は多い。服薬治療から始め、効果がない場合は手術などを考える。

 一般的な治療法は、脳に針を刺して治療部位を熱で固める高周波凝固術か、電極を刺して刺激をする脳深部刺激療法で、いずれも開頭手術が必要。患者の負担が大きく、この病気で死亡することはないため、治療に踏み切らないケースも多いという。

 集束超音波による治療は子宮筋腫でも実用化されているが、本態性振戦への応用は国内では臨床研究の事例も含めてまだ約120例と、始まったばかりの治療だ。頭蓋骨を通して超音波を送るため、頭蓋骨の性質や形状によっては超音波がうまく伝わらず、治療ができないことがある。

 震えは服薬の副作用など、さまざまな原因で起こり、名古屋共立病院のふるえ外来ではまず、震えの原因を特定する。本態性振戦と診断されてから服薬治療までは健康保険が使える。服薬の効果が上がらなければ集束超音波による治療を選択でき、自由診療となる。

 パーキンソン病の治療に応用する臨床研究が進められているが、同病院では実施していない。

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