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〈いのちの響き〉地域移行のはざまで (2) 「選択肢広げたい」悩む職員

(2017年12月14日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
画像入所者の女性らと談笑する米倉恵里さん(右)=津市の三重県いなば園で

 午後7時、津市の山あいにある知的障害者施設「三重県いなば園」では、入所する150人の一日が終わりに近づいていた。夕食を済ませた成人寮の入所者たちはソファに腰掛け、入浴時間を待っている。そんな中、一人の男性(20)が、寮長の野田寛将(ひろのぶ)さん(45)を見つけるなり、廊下の向こうから一目散に走り寄ってきた。

 「ごめん。お父さんは今日、迎えに来ないんだ」。無言で目に涙をためた男性に野田さんが声を掛ける。この日は週一回の帰宅日だったが、急きょ父親の都合が悪くなった。発達障害で、気持ちの切り替えが苦手なのも相まって、男性はその後もしきりに野田さんに詰め寄ってきた。

 「ずっと施設で暮らしてもいいと思っている人は多分、いないと思いますよ」。35年勤める園の地域支援部長、米倉恵里さん(56)の実感だ。気持ちを言葉に出すのが難しくても、会いに来た家族を見送る時は必ずといっていいほど寂しそうな表情をする人、環境を変えるのは極度に不安でも、老後も施設に住み続けるかどうか問いかけると首を横に振る人…。そうした姿を長年、そばで見てきた。

 園では業務の合間を縫って、職員がグループホームの見学や宿泊体験に入所者を連れて行っている。集団生活の園では自由に外出できないなど制約も多く、グループホームで暮らせるなら、移行するのが本人のためと考えるからだ。「自宅に帰るのが難しくても、せめて住まいの選択肢を広げてあげたい」。そんな思いで、米倉さんも携わっている。

 ただ、成人の入所者は入れ替わりながら常に120人以上いるのに、実際に移行できるのは年に1人か2人。人手不足が慢性的な福祉現場にあって、国の基準で配置する職員が増やされている重度障害者のグループホームに参入する事業所は多くない。独特のこだわりや感情の起伏などを理解したヘルパーが確保できるとも限らない。同じ問題は、日中を過ごすデイサービス施設や作業所にも付きまとう。

 このため、規則正しく作業所に通えるなど、生活リズムが安定した人でないと敬遠されがちなのが実情だ。成人寮の障害者の平均年齢は現在45歳。次の行き先がなく、20年近く住み続ける人が過半数だ。

 午後8時、夜勤態勢に入った園は一つの寮につき職員2人になる。一時間置きに見回りをして、翌朝7時半まで一人当たり約20人の入所者に対応する。昨年7月、相模原市の知的障害者施設殺傷事件を受け、夜勤の増員も検討されたが、日勤の職員を回すほどの余裕はなかった。

 職員たちは入所者と24時間をともにする中で、一人一人の障害を理解し、身の回りの生活を支援している。簡単な整頓や掃除など自分でできることは長所として伸ばし、規則正しい生活習慣を身に付ける手助けもする。地域の受け皿が整わない現状で、必要な支援が集約された施設に寄せる家族や成年後見人の期待もよく分かる。

 それでも、「本人の立場で考えたとき、施設しか居場所がないとしたら幸せだと思いますか」と米倉さんは投げかける。生活の自由度が高いグループホームへの入居は、自分らしい暮らしの第一歩になるのではないか。だから、地域にもこう期待する。「障害が重いからと、敬遠するのではなく、一歩踏み込んで受け入れてほしい。その積み重ねが地域移行を前に進めるのではないでしょうか」(添田隆典)

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