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〈いのちの響き〉地域移行のはざまで (5) 地元の理解で関係を育む

(2017年12月21日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
画像北川進さん(左)に散髪してもらう男性(右)。法人職員の松村優子さんが見守る=滋賀県東近江市で

 「男前になったな」。滋賀県東近江市の理容店で、オーナーの北川進さん(74)が顔そりを終えた男性客(54)に声をかける。男性はすぐ近くのグループホーム「明歌里(あかり)」で暮らしており、知的障害がある。ホームに住み始めた10年前から2カ月に一度、店に通う。北川さんに会うのは楽しみの一つ。先月、ホームの3人の仲間や職員と旅行に行った時もお土産を買って帰り、北川さんに届けた。

 男性は人と交わるのが苦手。日中通う作業所でも朝の会には出席せず、廃品の整理など別の作業をして過ごす。ホームでも自分が一番にお風呂に入れないことに腹を立てて、玄関から飛び出して行ったことが何度もあった。

 そんな男性は毎年2月、地域の「スター」になる。ホームも北川さんも入っている地元自治会の新年会だ。男性は6年前から毎年、新年会に参加し、カラオケで盛り上げる。初めて参加した時は、地元の人たちも、「歌えるかな?」とおそるおそる男性にマイクを渡した。しかし、男性はテレビで見た近藤真彦さんの「ギンギラギンにさりげなく」を物まねで歌いだした。

 壁に片手をついてポーズを決めたり、参加者に握手を求めたり。背が高く体格がいい男性の姿はサマになっていた。「おー」「うまいなー」。参加した約20人は大いに沸いた。男性はビールが大好きで、北川さんらについで回った。「お酒を酌み交わして、お客さんとしてだけでなく地域の仲間として付き合えるのは、ありがたいことだ」と北川さんは笑う。

 男性は家庭の事情で子どものころから施設に入所し、社会福祉法人「蒲生野会(がもうのかい)」が運営する障害者施設で暮らしていた。10年前、入所者が施設を出て地域で暮らせるようにと、法人が建てたホームに移った。大勢が入所する施設では自己主張したり、人目を引こうとしたりすることはほとんどなかった。法人職員で、施設のころから男性を知る松村優子さん(45)は「施設からホームに移り、地域でたくさんの人と出会い、もう一度育ち直しをしたかのように『自分らしさ』が出るようになった」と話す。

 しかし、社会の障害者への理解が浸透したわけではない。法人は2009年、市内の別の地域の市有地にホームを新設しようとしたが、地元の反対に遭った。自治会からの求めに応じて市の職員らと一緒に説明会も開いたが、約20人の参加者は「なぜここに建てるのか」と理解してくれなかった。やむなく建設地を別の場所に変更した。

 ホームの入居者がトラブルを起こすこともある。数年前、ある自閉症の男性が一人で外出し、近くの商店の箱の中から缶ジュースを勝手に持っていってしまったことがあった。ジュースが減ることが何度か続き、店員の女性(71)が見張っていたところ、男性がジュースを持って帰ろうとするところを目撃。「おばちゃんとこも困るからお金を払ってね。買い物は誰かに付いてきてもらわないとだめよ」と男性を諭し、ホームにも連絡した。一人で道路を渡って店に来る男性が、事故に遭わないかという心配もあった。他のホームの利用者もよく買い物に来て職員とも普段からあいさつを交わしているため、声をかけやすかったという。

 男性と職員が店に一緒に謝りにきて以降、問題は起きていない。女性は「地域で見守って、理解しあおうとすることが大事」と話す。(細川暁子)

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