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かみしめたい 口福の味 舌切除した患者ら集う 名古屋つばめの会

(2018年1月9日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

嚥下機能回復へ 仲間を励みに訓練

 がんで舌を切除するなどして、物を食べたりのみ込んだりする嚥下(えんげ)機能にダメージを受けた患者や家族、医療スタッフらが集まる「つばめの会」が、名古屋市千種区の愛知県がんセンター中央病院で活動している。中部地方では唯一の患者グループで、目指すは「食のバリアフリー」だ。患者の一人、岐阜県高山市の会社員荒井里奈さん(43)の闘病生活を中心に、会の存在が患者を支えている様子を紹介する。 (編集委員・安藤明夫)

画像にぎりずしをほおばる荒井里奈さん。舌の切除後、懸命なリハビリで「口から食べる機能」を取り戻した=名古屋市内のすし店で

 ホタテのにぎりずしを、荒井さんは数回に分けて食べた。舌がないため、口内のネタやシャリをのどへ送り込めず、箸を口の中に入れて移動させる。そして、あごを上げ、お茶で流し込む。

 食べ物の感触や温度などは分からないが「かむときに、歯茎でおいしいと感じるし、このホタテの甘さも香りも分かります」とうれしそうに笑った。発音はやや不明瞭だが、十分に聞き取れる。「また働けるように」と懸命にリハビリに励んだ成果だ。

 3年前の夏、唾液を分泌する舌下腺にがんが見つかった。「腺様嚢胞(のうほう)がん」という珍しいがんだ。頭頸部(とうけいぶ)(口、のど、鼻)のがん治療で知られる同病院で、舌の大半とあごの一部などを切除。放射線治療も受け、半年あまり入院した。

 つばめの会に初めて参加したのは、手術の翌月。そのころは鼻からチューブで栄養を補給し、気管切開し、食べることも話すこともできなかった。「でも、退院した患者さんたちは、料理のことを楽しそうにしゃべっている。いつかこうなれるんだと、力がわいてきました。元気になって、他の患者さんに希望を与えたいと思うようになりました」

 リハビリは予想以上につらく、当初はわずかな水を飲むだけでむせてしまった。専用のチューブで、のどの奥に流動食を少しずつ流し込む練習も、10分ほどで疲れ切った。マウスピースを使って言葉を話す訓練は、最初は「音が出るだけ」。何度もくじけそうになったが、会の先輩たちの姿が励みになった。

 少しずつ回復し、退院のめどが立つと、思い切って胃ろうをつくった。仕事に復帰し、口から十分に食べられるようにするために、手軽に栄養補給できる手段を持つ必要があると思ったからだ。

 退院後は、食べやすいカレーを中心に、口から食べる割合を増やし、今はほぼ100%に。職場で多くの人たちと話をすることもリハビリとなって、のどやほおの筋力が戻り、機能が回復していった。

画像つばめの会の月例会で、医療スタッフに体験を語る患者や家族たち=名古屋市千種区の愛知県がんセンター中央病院で

 月1回のつばめの会には退院後も毎月通い、他の患者たちと調理法や旅行体験などの情報を交換している。昨年は外食を楽しむ会も企画した。肺への転移が見つかるなど、がんとの闘いは続くが「前向きに過ごすことが免疫力アップにつながる」と明るい表情を見せる。

医療スタッフと 活発に情報交換

 同会の結成は、2012年。同病院の「摂食・嚥下障害看護」の認定看護師、歯科衛生士、管理栄養士、調理師のチームが、手術後の頭頸部がん患者などの「口から食べる力」を高めることを目的に、患者や家族に呼びかけた。当初は数人が集まる程度だったが、最近は中高年の女性を中心に毎回十数人が参加し、おしゃべりに花が咲く。

 「食事のことは、女性のほうが頑張れるようです。医療スタッフ主導で始めた会ですが、すっかり患者さん主体になってきました」と、歯科衛生士の長縄弥生さん(44)。

 嚥下に重要なのは、食べ物の軟らかさ、消化の良さと、とろみ。同会では、とろろ、溶けるチーズ、納豆などを使った食材や調理の工夫について患者たちが報告し合う。病院の調理師は、入院患者に提供する嚥下食の試食をしてもらい、感想を聞いたりする。「味付け、苦み、のどのざらざら感など、感じ方は人それぞれで勉強になります」と調理師の滝沢幸二さん(49)。

 認定看護師の八重樫裕さん(46)は「病院を退院されてからの患者さんの生活は、私たちは外来で尋ねる程度しか分からない。会で患者さんから聞く体験にいつも驚かされます」と話す。

「食のバリアフリー」テーマに公開シンポ

 愛知県歯科衛生士会は3月18日午後1時半から、同病院の国際医学交流センターで「食のバリアフリー」をテーマにした県民公開シンポジウム(中日新聞社後援)を開く。病院や福祉施設のさまざまな取り組みの発表があり、荒井さんが「舌はなくても外食したい」、長縄さんが「新しい支援の試み」をテーマにそれぞれ話す。入場無料。

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