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「成年後見利用で失職 違憲」

(2018年1月10日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

岐阜の男性 きょう国など提訴

 適切な財産管理をしてもらうために成年後見制度を利用した後、利用者の就業を禁じる警備業法に従って警備会社を退職せざるを得なくなった岐阜県東濃地方の知的障害者が10日、勤務していた県内の警備会社に社員としての地位確認を、国に慰謝料として損害賠償100万円の支払いを求める訴訟を岐阜地裁に起こす。制度利用者の就業を認めない警備業法の規定は、職業選択の自由を保障した憲法に違反するなどと訴える。(井上仁、下條大樹)

 原告は30代男性。代理人弁護士によると、軽度の知的障害などがあるが、2014年4月、県内の警備会社に入社した。会社側も知的障害があることを理解して雇用したという。男性は各現場で主に、通行人や車の誘導をした。

 男性は家庭内のトラブルに悩んでいたため、自身の財産管理をしてもらうため、成年後見制度を利用することに。17年2月、財産管理をする「保佐人」がつくことになり、翌月に会社を退職した。制度利用の手続き中に、警備業法の規定で、退職せざるを得ないことを知ったという。

 男性が退職を余儀なくされたことを弁護士が知り、男性に連絡。弁護団をつくって不当性を法廷で訴えることにした。

 男性側は訴訟で「成年後見制度は自身の財産管理を支援する制度で、その能力の有無や程度によって警備員の適性を判断する警備業法の規定には、合理性がない」と主張する。

 男性が勤めていた警備会社の担当者は取材に対し「勤務態度も真面目で、辞めてほしくなかった」と話した。男性の退職は「警備業法の規定があったため」とし、会社としても本意ではなかったという。

財産保護 就労奪う 矛盾

 障害者や高齢者の財産や権利を守るための成年後見制度を利用すると、能力や適性が審査されることなく、利用者が職を失ってしまう。今回の訴訟は、そんな矛盾を社会に問うことになる。制度利用者の就業などの権利制約には、政府も問題意識を持っており、見直す方針を示している。

 成年後見制度を利用し、本人に代わって財産管理をする「保佐人」や「後見人」がついた場合に就業できない職種には、医師や弁護士、公務員、株式会社の取締役などがある。それぞれの資格に関する法律に、就業できない人として「成年被後見人」や「被保佐人」が含まれるためで、警備業法もその一つにあたる。警察庁によると、警備員は他人の生命、財産などを守る業務に直接関わるためという。

 しかし、自身の財産を管理する判断能力と、警備など、それぞれの仕事を担う職業人としての能力は別物で、個人差もあるとの指摘はかねてある。2015年には、地方公務員法の規定は違憲として、知的障害者で元大阪府吹田市臨時職員の男性が市に対し、職員としての地位確認や損害賠償を求めて大阪地裁に提訴。現在も係争中だ。

 また東京地裁は13年、成年後見人がつくと選挙権を失うとした旧公選法の規定を違憲・無効と判断。法改正につながっている。

 政府は17年3月、成年後見制度の利用促進に向けた基本計画を閣議決定。権利制限を19年5月までに見直す方針を記した。

 成年後見制度に詳しい新潟大の上山泰教授(民法)は「それぞれの仕事に就業できるかどうかは一律に決めず、個々の能力や資格で具体的に判断されるべきだ」と話している。(下條大樹)

 成年後見制度 認知症や知的障害、精神障害などによって、物事を判断する能力が十分でない成人に代わり、家庭裁判所に選ばれた親族や弁護士らが財産管理や契約などを担う制度。不動産や預貯金などの管理、介護などのサービスを受ける際の契約、遺産の協議などで、当事者が不当な不利益を被らないようにする。高齢化社会を迎えることから利用促進が期待されている。2000年に従来の禁治産、準禁治産制度を廃止して導入された。

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