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17歳・川澄敬さんの遺志継ぐ 小児がん医療 記念シンポ 新治療実現 一日も早く

(2018年1月23日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
画像亡き息子への思いを訴える川澄一仁さん

 悪性リンパ腫のため昨年9月に名古屋大病院小児科で亡くなった愛知県東浦町、東海高校2年川澄敬さん(17)=当時=の遺族からの寄付をもとに、小児がん医療の発展を目指す記念シンポ(名古屋小児がん基金主催)が14日、名古屋市内で開かれた。名大小児科では、画期的な新治療として注目されるCAR−T細胞療法の臨床試験開始に向け国の承認が間近に迫る。これまでの歩みや、新治療への期待、患者家族の思いが語られ、300人を超す聴衆が胸を熱くした。(編集委員・安藤明夫)

■患者側の思い

 敬さんの父、一仁さん(51)は、敬さんの生前のエピソードを紹介した。月額約200万円の治療費の大半が公費で賄われていると知り、敬さんは「病気が治ったら、世の中の役に立つ人になって、恩返ししなくちゃね」と話していたという。再発を繰り返し治療法が狭まる中、医師が「効果がありそうな治療はあるけれど、国の承認を得ていないからできない」と悔しがっていたことも明らかにした。

 「終末期の敬は『この病気のこと、ぼくはもう憎んでいない』と言ったけれど、親である私は、そこまで心が広くない。息子の命を奪った病気は本当に憎い。すべての子どもたちが、最高の治療を受けてがんを治し、学校に戻ることができる。そんな社会を目指してほしい」と、研究に期待を寄せた。

 パネリストの新潟県の大滝明日加さん(37)は、長女結衣花ちゃん(7つ)が急性リンパ性白血病で骨髄移植を受けた後、わずか2カ月で再発。従来の治療に限界を感じる中「CAR−T細胞療法などの新治療を一日も早く実現してほしい。今後5年で小児がん医療は大きく変わると聞いたが、親としては5年は遅すぎる」と訴えた。

 敬さんの友人で、医学部進学を志望する斎藤漠さん(17)=東海高校2年=は「川澄が(医学の発展のために)病理解剖してほしい、香典は名古屋小児がん基金に寄付してほしいと望んだことを知り、驚き、彼を尊敬した。彼ができなかったこと、やりたかったことを想像し、彼の分まで楽しんでやろうと思う」と追悼した。

■医師の思い

画像26年前のシンポを振り返り、医療の歩みを語る医師たち=いずれも名古屋市中区で

遅い承認、規制緩和を

 CAR−T細胞療法とは、患者のリンパ球に遺伝子を組み込んで培養。免疫を担うT細胞が白血病細胞を殺せるようにしてから体内に戻す免疫療法。米国での治験では、急性リンパ性白血病などの難治患者の70〜90%が助かるという驚異的な成果を示したが、1回約5千万円の高額な治療費が課題になっていた。名大と信州大が共同開発した手法は、大幅にコストダウンできる可能性がある。

 シンポで、名大小児科の高橋義行教授(50)は「5年後には白血病の分野で標準治療になり、10年後には他のがんにも応用される」と、今後の臨床試験と実用化に意欲を燃やした。

 こうした新研究を応援する目的で一昨年に設立されたのが名古屋小児がん基金。理事長の小島勢二・名大名誉教授(67)は、大学主導の研究に期待を寄せる一方、専門の再生不良性貧血の分野でも、1992年に患者遺族からの寄付をもとに開いたシンポがきっかけとなって研究が進み、治癒率向上につながったことを紹介。当時の仲間の医師たちと、歩みを振り返った。

 敬さんの主治医・成田敦さん(39)=名大病院助教=は、再発をどう告げるかに悩んだ時に敬さんが逆に気遣ってくれた思い出を振り返る一方、有効な治療を提供できなかった悔しさを吐露。「世界で有効性が確認された治療を、その後に日本で確かめることを続けていては、数年、十数年遅れたまま。数の少ない小児疾患は未承認薬などの有効性の確認にも時間がかかる。規制を緩めることも大事では」と訴えた。

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