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人の命 国家が選別 ハンセン病訴訟の闘い 励みに

(2018年1月31日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
旧優生保護法を巡る経過

 旧優生保護法の違憲性を問う訴訟が仙台地裁に起こされた。原告は知的障害を理由に不妊手術を強制された宮城県の60代女性。弁護団は、被害を訴える元患者が相次ぎ、和解を経て補償を勝ち取った「ハンセン病訴訟」を意識し、新たな原告の登場に期待する。一方の政府内には「なぜ今」と困惑も。施行から70年。当事者の高齢化が進む中、救済は実現するのか。

■手術2万5千人

 消え入りそうな声だった。「20年やってきたが書類がない。年を取っており早く前に進んでほしい」。30日の仙台市。提訴後の記者会見には、弁護士らと共に70代女性の姿があった。16歳の時、知的障害を理由に不妊手術を強いられたと訴え続けてきたが、裏付けとなる資料が見つからず原告にはなれなかった。

 旧法下で不妊手術を施された障害者らは約2万5千人。共同通信の調査では25日時点で現存が確認された個人名記載の資料は約2700人分にとどまる。

 厳しい現実を前に、弁護団からは「ハンセン病訴訟をモデルに」との声が出ている。1998年、元患者らが強制隔離政策の違憲性を問い熊本地裁に提訴。差別と偏見の実態が明らかになり、救済を望む世論が高まった。

 新たに名乗り出た原告が東京や岡山でも提訴。2001年に熊本地裁が国に賠償金の支払いを命じると、当時の小泉純一郎首相が控訴断念を決断し、国は謝罪と補償、検証を行った。

 「ハンセン病訴訟でも国は(政治決断まで)非を認めなかった。その怒りがある。早期の実態調査と補償を実現したい」と新里宏二弁護団長。広く被害者を募る構えで「声を上げてほしい。その気概が社会を変えるエンジンになる」と訴える。

■独では被害救済

 旧法が制定された背景には、敗戦直後の人口過剰問題がある。46年、旧厚生省と関係が深い「人口問題研究会」は建議で、当時の国民優生法に関し「実績が上がらないのは任意だから」として強制性の付与を提言。2年後、強制不妊手術を認めた旧法が施行された。

 研究会の人口政策委員会には、女性運動家や著名な知識人もいた。東大大学院の市野川容孝教授(医療社会学)は「優生学はドイツ・ナチスと結びつけられ『極端なもの』と見られがちだが、違う。人口・福祉政策とは親和性が高く、リベラルと呼ばれる人や思想とも無縁ではない」と根深さを指摘する。

 70年代以降は脳性まひの当事者団体「青い芝の会」が障害者差別だとして反対運動を展開、共感を得たが、旧法は96年まで存続した。一方、ドイツでは80年から強制不妊手術の被害救済が始まっている。

 市野川氏は「日本では障害者らが早くから『正しい声』を上げ、優生思想を問い直している」と歴史を振り返り「国は裁判の行方にかかわらず、自ら検証し救済に向かうべきだ」と語った。

旧優生保護法とは 70年前施行 「不良な子孫防止」目的 ナチス「断種法」根底に

 Q 旧優生保護法はどんな法律なの?

 A 「不良な子孫の出生防止」を目的に1948年に施行されました。ナチス・ドイツの「断種法」の考えを取り入れたともされる国民優生法が前身で、知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由とした不妊手術を認めていました。医師が必要と判断すれば、本人の同意を得なくても「都道府県優生保護審査会」の決定に基づく強制的な不妊手術も可能としていました。

 Q 何件くらいの手術が実施されたのですか。

 A 日弁連は国の優生保護統計報告などから96年に差別的条項が削除されて母体保護法に改正されるまで約2万5千人の男女に不妊手術が施され、うち約1万6500人が同意なき強制手術を受けたとしています。旧法は優生思想に基づく人工妊娠中絶も認めており、延べ約5万9千人に実施されたとしています。

 Q 救済に向けた政府の対応は。

 A 旧法には戦後の混乱期における人口急増への対策といった側面がありましたが、時代の流れとともに障害者差別や強制手術の非人道性が問題視されるようになりました。2015年に宮城県の女性が日弁連に救済を申し立て、16年には国連女性差別撤廃委員会が法的救済を政府に勧告。日弁連は17年に謝罪や補償を求める意見書を提出しましたが、政府は「当時は適法だった」として救済に応じていません。

 Q 他の国にも同様の問題はあるの?

 A 日弁連によると、優生思想に基づく強制的な手術は世界各国で実施されたようです。旧法と同様の法律があったスウェーデンやドイツは国として被害者に謝罪し、補償金を支給しています。

 Q 裁判の注目点は。

 A 原告側は、旧法は自己決定権を保障した憲法に違反すると主張。重大な人権侵害があったのに、政府や国会は救済制度や補償立法へと動かず、放置したと訴えています。弁護団は今後、被害当事者を広く募る構えで、政府が資料保全や実態調査など救済に向けた対応へとかじを切るかが注目されます。

来月2日 全国電話相談

 旧優生保護法下での不妊手術に関する電話相談を全国各地の弁護士が2月2日、一斉に受け付ける。仙台の他、札幌、東京、大阪、福岡で実施予定。明るみに出ていない事例を掘り起こし、実態解明につなげる狙いだ。

 仙台の相談窓口は電話022(721)7093で、時間は午前10時~午後4時。札幌は011(251)0377、東京は(0120)990350、大阪は06(6765)0700、福岡は092(721)1208。いずれも午後1~4時。

 国を相手に仙台地裁に提訴した原告の代理人を務める新里宏二弁護士は「まずは電話で悩みを寄せてほしい」と呼び掛けている。

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