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〈命を紡ぐ〉Ⅰ部 医療の現場から (4) 定期通院 滋賀医科大病院

(2018年2月7日) 【中日新聞】【朝刊】【滋賀】 この記事を印刷する

親子の幸せを手助け

画像聴診器をあて胸の音を聞く底田さん=大津市の滋賀医科大病院で

 昨年10月下旬、滋賀医科大病院(大津市)の小児科外来の診察室。小児神経科医の底田辰之さん(42)は、付き添いの母親に問い掛けながら、真剣なまなざしで子どもの胸に聴診器を当てた。いつもと違う濁った音がする。

 「ちょっと肺炎にかかっていますね」。さらに耳を澄まし、心臓や肺の音を確認した。

 病気や障害などで日常的に医療的なケアが必要な子どもは、退院後も月1回ほど定期的な受診が必要だ。底田さんは、脳性まひや染色体異常など、退院直後の0歳から成人前の子どもの発達や病態を継続して見ている。

 経過を見る中で、ケアの見直しが必要になるケースがある。ミルクを自力で飲むことができないある赤ちゃんがそうだった。生まれた直後から、鼻から胃にチューブを通して水分や栄養分を投与する「経管栄養」だった。

 退院後、赤ちゃんの負担を軽減しようと、底田さんは胃に直接穴を開けて栄養を送る「胃ろう」を提案したが、赤ちゃんの両親は拒んだ。おなかに穴を開けることへの抵抗感と、「いつか口から飲んだり、食べたりすることができるかもしれない」という期待があったためだ。

 しかし、赤ちゃんは将来的に口からの栄養補給は難しい状態で、経管栄養を長期的に行うのは体に良くないというデータもあった。底田さんは、子どもを思う親の気持ちも受け止めながら、胃ろうのメリットを説明した。例えば1歳の誕生日に皆でお祝いのケーキを食べる時、経管栄養なら、子どもには液体の栄養剤しか入れられない。しかし、胃ろうなら、ケーキをペースト状にして胃に送ることができる、と。

 「形は違うけど、家族で同じ物を食べられる。ちょっとでも人間らしい生活を送ってほしかった」と底田さんは語る。

 底田さんは大学2年生の時、甲賀市の紫香楽病院を実習で訪れた。心身に重い障害のある患者が、楽しそうに笑う姿を目の当たりにした。「ここにいるすべての人には幸せになる権利があり、その手助けをする必要がある」との思いが自然と沸き上がった。

 日常の診察では、のどに穴を開ける気管切開や人工呼吸器の装着など、両親にとっては重い決断を迫らなければならない瞬間が何度もある。悩み葛藤した両親が、自分に決断を求めることもある。

 「私たちが診ている多くの病気は完治することはない。親の思いを聞きながら、子どもにとって最善の状態を考えた医療を提供していきたい」(Ⅰ部終わり)

 医療的ケア児の通院状況 県内で心身に重い障害のある医療的ケアが必要な子どもは、昨年4月1日時点で880人。近年は症状が軽い子どももおり、医療的ケアが必要な子どもの全体像は分かっていない。子どもたちの通院先は、地域で不足しており、滋賀医科大や県立小児保健医療センターなど大きな病院に集中している。

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