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〈走る 在宅診療医〉(下) 介護 長続きさせるこつ

(2018年2月14日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

脱完璧「不良の勧め」

画像御年103歳の富久梅子さんを診察する小笠原さん(左)。「血圧は114の74。まったく問題ありません」「先生に診てもらってうれしい」。語り合う2人=高知県四万十市で

 高知県・四万十川の四季を背景に、在宅診療医の小笠原望さん(66)に密着したドキュメンタリー映画「四万十・いのちの仕舞い」(溝渕雅幸監督)。多くの患者を在宅でみとった経験から、小笠原さんは「在宅死は最高のぜいたく」と言う。「ぜいたく」は極めて恵まれてこそできること。「施設から在宅へ」と介護の流れを推し進める政治には、違和感を覚える。 (三浦耕喜)

 在宅に介護の軸足を置きたい政府としては、小笠原さんのような在宅診療に熱心な医師は、望ましい存在のはずだ。だが、小笠原さんの言葉は「在宅医療をもっとやれ、と政治から簡単に言われると、ちょっと待って、と言いたいことがある」と手厳しい。

 一言に「在宅」といっても、家族やそれを取り巻く環境は千差万別だ。「在宅で介護をする難しさは、かかわった人でなければ分からない」と小笠原さん。確かに、介護政策を決める政治家や役人に、汚れた親の下着を洗った経験のある者が何人いるのか。介護を配偶者や特定の親族に任せきりにしてはいないか。頭は良くても経験による裏付けがなければ、どんな政策も空疎でしかない。

 小笠原さんが重視するのは、家族が持つ実際の「介護力」だ。その筆頭に小笠原さんが挙げるのが、先も触れた「汚れることをいとわない気持ち」だ。

 認知症患者に多いが、介護では本人が排せつで周りを汚す場合がある。「『どうしてこんなことをするの!』と親を叱る介護者がいる。でも、それが人間なんです。手を汚すのが介護なんです」と小笠原さん。逆に介護力の高いヘルパーさんだと、大量の便の出た紙おむつを替える時「おめでとうございます!」とお祝いするという。「そう言ってもらえることがうれしいと、その人は何度も僕に話してくれます」と言う。

 とはいえ、介護する側の気持ちが深刻に張り詰めていてばかりでは、介護は続かない。介護力が続くためにも、小笠原さんは、介護における「不良の勧め」を説く。「『できることはできるけども、できんことはできん』という姿勢のこと。介護で悪戦苦闘している人には繰り返してそう言います」

 思い通りにいかないのが介護の現場。「介護をしている人は振り回される毎日で、くたくたの人が多い。完璧でなくていい。介護は少しいいかげんな人が疲れない」。「不良」の勧めだ。

 逆にきっちり訪問時間を定め、実際に訪ねると部屋がきちんとしている家がある。そんな時、小笠原さんの警戒感は上がる。「こんなにきちんとしていては長続きはしない」。入院や施設の利用を説得する時もある。

 「家族愛」を強調するのも要警戒だ。「介護を受けているのに、親にとってはいつまでも子どもは子ども。逆に子どもは親のこんな姿は見たくないと、元気だったころのイメージを抱きすぎている。遠慮がないから、疲れてくると言葉が次第にとがってくる」という。

 特に地方では、都市部に出ていく子が多いため「老老介護」となる場合が多い。「介護する側が認知症になると、食事もままならなくなり、介護は乱れてくる。無理な在宅介護は本人にも家族にとってもよくない。介護に疲れて虐待にまでいきかねない」と小笠原さん。「在宅を選ぶにしても、仕事を辞めるなど、多くのものを失ってまで行うのはいかがなものか」と続ける。

 在宅介護を実態以上に美化し、そちらに誘導したい政府の方針には財政難という理由があるとしても、家族の介護力を度外視しては不幸な介護に陥りかねないというのが、在宅診療医のベテランからの警告だ。

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