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第35回

「直ちゃんを作ってください」

2012年4月12日

 たった一つの言葉から、想像を絶する悲しみが伝わってきて、胸が詰まってしまう・・・。
 犯罪被害者や遺族の方を取材して、そんな体験をしたことが何度かあります。
 「イッキ飲み防止連絡協議会」という団体の石谷師子さん(静岡県在住)にお話をうかがった際、涙を抑えることができなかったのは「直ちゃんを作ってください」という言葉でした。

弟の死を理解できず・・・

 石谷さん夫婦の次男・直之さんは、1995年6月、専修大学の1年生のときに、7つの大学の旅行サークルが合同開催した新入生歓迎合宿に参加しました。
 そこで待っていたのは、上級生から「イッキ」の音頭と、ストレートの焼酎の飲酒強要でした。
 意識不明状態になった直之さんは、別の部屋に寝かされました。そのまま介抱もなく放置され、同日深夜、急性アルコール中毒による心不全で息を引き取りました。
 異変に気づいた上級生が救急車を呼んだ時は手遅れでした。

 直之さんは、とても心優しい子でした。一つ違いのお兄さんに生まれつきの障害があったことから「ぼくは大人になって家庭を持っても、お兄ちゃんの面倒をみる」と両親によく話していたそうです。
 その直之さんが、棺に入っている姿を見て、お兄さんは混乱しました。
 知的障害を伴う自閉症のお兄さんは、自分の見たものを記憶することは得意で、言葉もある程度は使えるけれど、物事の意味や概念を理解するのは苦手。
 「死」とはどんなことなのかも、理解できませんでした。
 冷たくなった直之さんに衝撃を受け、元通りにしてほしいと思い、両親に「直ちゃんを作ってください」と何度も訴えました。
 
 お兄さんの胸中、ご両親の悲嘆。心に深く突き刺さりました。私自身、同様の障害の息子がいるせいかもしれません。
 こんなことがあってはならないと、強く思いました。

なくそう アルコール・ハラスメント

 石谷さんはその後、遺族たちでつくるイッキ飲み防止連絡協議会に参加。現在は代表として、イッキ飲ませなどアルコール・ハラスメント(酒席での嫌がらせ)防止の啓発活動などに情熱を注いでいます。
 協議会は結成20年を迎えました。春の新入生歓迎コンパの時期に合わせ、スマートフォン用に動物がしゃべる「お断りアプリ」なども作って、キャンペーンを展開しています。
http://www.ask.or.jp/ikkialhara_campaign.html
    


スマートフォンの画面で動物がしゃべる「お断りアプリ」

 しかし、酒席での死亡事故は後を絶ちません。
 今年も、3月に東京都内で2人の大学生が亡くなりました。
 宴会を盛り上げるための悪ふざけ・集団の強要が、若い命を危機に追い込んでしまう。
 アルコールの怖さも、急場の適切な対応も知らないから、救えたはずの命を救えない。
 死亡事故の構図は、20年間ずっと変わっていません。

 若い人たちに、考えてほしい問題です。

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執筆

安藤 明夫

編集委員

生きがい、生活習慣病予防、心の健康・・・医療記者としての取材体験を自分自身の「これから」に重ねて、つづっていきます。