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第193回

「こりゃーダメ」なカウンセラー

2015年7月3日


 先日、京都で開かれたトラウマチック・ストレス学会で、「当事者がつらい体験を語ること」の意義を考えるシンポジウムがありました。私もパネリストの一員として参加しました。とても中身の濃いシンポでしたが、中でも圧倒的に印象深かったのは、性犯罪被害者である小林美佳さんのお話でした。
 東京在住の小林さんは、15年前に強姦の被害に遭いました。事件は未解決のまま。ずっと大変な時間を送る中で「被害者が口を閉ざしていなくちゃならない社会は変だ」と考え、事実を公表して語るようになり、事件後の日記を基にした著書「性犯罪被害にあうということ」(朝日新聞出版)が大きな反響を呼びました。
 そして、だれにも言えないつらい思いを抱えていた数千人の被害者たちとインターネットを通じてつながり、支え合って互いの力を高め合う活動を続けています。
 小林さんのお話の中で、特に考えさせられたのは「こりゃーダメだ、と言うしかないカウンセラーたち」の逸話でした。

それを決めるのはあなたじゃない!

 初めて行ったカウンセリングルームで、自分の被害体験を説明しようと「何年か前に嫌なことがあって・・・」と話し出したら、白衣の男性カウンセラーは「ちょっと待って。勝手にそれを決めちゃダメだよ」と話を遮りました。
「君が起点を決めることじゃない。これから話を聞いて、ぼくが決める」と。
おそらくカウンセラーは、失恋とか職場のトラブルとかを想定していたのでしょうが、あまりにも「上から目線」。小林さんはすっかり説明する気をなくしたそうです。

 次に行ったカウンセリングルーム。
 性犯罪に遭ったことを最初に説明したら、男性カウンセラーは「それは大変でしたね-。分かりますよ」と満面の笑み。でも、その態度から「こいつに分かるはずはない」と感じ、15分で切り上げたそうです。被害者が自分を責めたり、自分の存在を汚れていると感じたり、性をめぐってさまざまな恐怖、不安を抱いたりすることについて、簡単に「分かりますよ」と言えることではありません。

 ずっと音楽が流れているカウンセリングルームもありました。自分の体験を語るのに音楽はそぐわないと思い「止めてほしい」と要望したら、「これはぼくの好きな曲なんです。あなたもきっと癒やされると思いますよ」。この人のカウンセリングとは、自分の趣味を押しつけることなのかと、不信感を抱いたそうです。

 多くのカウンセリングルームは、30分7000円とか8000円とか、高い料金を設定しており、短時間でクライアントの信頼感、満足感を得ることで成り立つ仕事。引っ込み思案な人には、こういう押しつけも有効な場合もあるかもしれませんが、小林さんのようにとてつもないトラウマを背負い、悩み、深く考え、胸の内を語れる相手を真剣に求めてきた方には、すぐにメッキがはがれてしまうのだろうと思いました。
  
 仕事に慣れてくると、新しい出会いに緊張感がなくなり、それまでの経験で処理できると思い込みがち。相手を尊重し、共感を持って接するという基本もおざなりになっていき、効率優先の態度になってしまう。
 これは、カウンセラーや医師に限らず、私たち新聞記者も自戒すべきことですね。

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執筆

安藤 明夫

編集委員

生きがい、生活習慣病予防、心の健康・・・医療記者としての取材体験を自分自身の「これから」に重ねて、つづっていきます。