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第226回

「沈没家族」の母と子

2017年9月27日

 「沈没家族」というドキュメンタリー映画を見ました。若手映画作家の登竜門・ぴあフィルムフェスティバル2017の入賞作品です。
 私は、福島の子たちを八丈島に招く「福八夏休みキャンププロジェクト」のお手伝いなどで毎年、八丈島に出掛けるのですが、地元のボランティアスタッフの一人に、加納穂子さんという、とても元気な女性がいます。その穂子さんの長男・土さん(武蔵大学4年)が、風変わりな大人たちに囲まれて育った幼少期をテーマに、家族の意味を問いかけたのが、この「沈没家族」。映像系のゼミの卒業制作でした。

一緒に子育てしませんか

 東京の専門学校に通っていた穂子さんは、付き合っていた男性・山さんとの間に、土さんを生みました。しかし、山さんと仲が悪くなり、シングルマザーに。それでも穂子さんは専門学校に通うことをあきらめず、保育を手伝ってくれる人を募りました。新宿駅前で「一緒に子育てしませんか」とビラを配ったのです。独身男性や幼い子をかかえた母親など10人ほどのメンバーが集まり、毎月の会議で保育の担当日を決めて、狭いアパートでの共同保育が行われました。アパートの数部屋を借りた共同生活にも発展していきました。
 その場の名前が「沈没家族」です。当時の政治家が「男女共同参画が進むと日本が沈没する」と発言したのを聞いて腹を立てた穂子さんが命名しました。この生活は、穂子さんが八丈島に戻るまで7年間続きました。


上映会で挨拶する監督の加納土さん

 映画は、土さんが当時のメンバーにインタビューしたり、暮らしていた場所を穂子さんと共に訪ねたりする構成です。同じアパートにいた女の子と久しぶりに会い「変わった生活だったけど、子育て環境として失敗じゃなかったね」と笑い合う場面もあります。三重県に暮らす山さんも訪ね、沈没家族への複雑な思いも聞き出しています。とても奥行きのある作品でした。
 映画の中で穂子さんは、共同保育の試みを始めた動機を「勉強したかったし、一人で育児をすると支配につながると思った」と話しています。そして今は、八丈島で精神障害者の支援活動を続け、公共ホールを借りたパーティーも毎年開いています。その活動の名前は「うれP家(や)」。いろんな偏見差別に負けず、心を開放して楽しさを共有していこうという趣旨です。


うれP家のパーティーで歌う穂子さん(中央)=今年2月、八丈島で

  頑張っているシングルマザーはたくさんいるけれど、こうした企画力、行動力のある人はめったにいるものじゃない。沈没家族に集まったボランティアたちも、穂子さんのエネルギーに惹きつけられたのだろうなと、映画を見ながら想像しました。
 
  この作品、10月17日午後4時30分から、京都市の京都シネマでも上映されます。山さんも見に来るそうです。ご関心のある方はぜひどうぞ。
  穂子さんのことは、以前の「青く、老いたい」でも少し紹介しています。よろしければご覧ください。

【関連記事】青く、老いたい「島の達人」

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執筆

安藤 明夫

編集委員

生きがい、生活習慣病予防、心の健康・・・医療記者としての取材体験を自分自身の「これから」に重ねて、つづっていきます。